國學院大學久我山中学高等学校
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学びの泉・学びの杜 〜研究最前線 國學院の今~ 第2回《後編》

第2回 河 炅珍 准教授(観光まちづくり学部)

國學院大學の学びを紹介する「学びの泉 学びの杜」。今年度のテーマは「研究最前線」。
各学部の先生方の学びにフォーカスします。第2回は、観光まちづくり学部准教授の河 炅珍先生です。
本ページでは、紙面に掲載しきれなかった内容を加えてWeb版として掲載しています。今回はその《後編》です。

河 炅珍先生のゼミ(通称:河ゼミ)に所属する3名の学生の皆さん(3年生/1期生)に、大学生活について伺いました。

 

(左から)河先生・榊原さん・冨永さん・中川さん

 ――まずは自己紹介からお願いします。

榊原 悠太さん 地元の埼玉県富士見市でちょいちょいまちづくり活動にチャレンジしています。昨年「第1回ふじみのMACHIfes street」が開催されると聞いて感動し、自ら主催者の方にアポをとり、当日インタビューして記事を書きました。そのときに「来年もやるから、ボランティアとして参加しない?」と誘われて、今年は「第2回ふじみのMACHIfes street」で、ミニチュア傘をカスタマイズするワークショップを主催しました。今、思うと、この学部で学び、地域のつながりの大切さを感じていたから行動できたのだと思います。


冨永 空さん 観光にはいろいろな関わり方があります。それだけに、自分は何をやりたいのか、を自覚することが大切だと思います。この学部で「観光PR」と出会い、その面白さや奥深さを実感できたことで、自分の立ち位置が見えてきました。私が育った静岡県浜松市は、田舎とは言いにくい田舎みたいなところです。将来は地域PRの観点で新しい方法を打ち出し、まちづくりに貢献したいと思っています。

中川 佳奈さん 私は名前の母音が全部aなので、まだ何もない「A」から始まるようなことが好きです。例えば、昨年は初めて共同生活をしたので、日々の出来事をまとめた「笹塚居候日記」を自費出版して、知り合いのカフェなどで販売しています。今年の年末にはギャラリーを借りて、初の個展を計画しています。目指しているのは「常に何かをしてる人」というブランディングです。高校の友だちに会って、「最近何してるの?」という会話になったときに、半年くらいのサイクルで全然違うことを答える自分でいたいと思っています。


 「地域を見つめ、地域を動かす」
 キャッチフレーズに感動!

 ――観光まちづくり学部を志望した理由を教えてください

榊原さん この学部を知ったときに、直感でここ面白そう! と思ったんですよね。

冨永さん 確かにそういう学生は多いかもね。私もそう思ったもん。

榊原さん 今思うと、僕は街の中のコミュニティというか、「つながり」を無意識の中で求めていたから、この学部に惹かれたのかもしれません。志望するときはそんな自分に気づいていませんでしたが、学ぶ中でそう思うようになりました。

冨永さん 私が観光まちづくり学部を知ったのは、認可が降りる前でした。どんなことを学べるのだろう、と気にかけていたら、まず「地域を見つめ、地域を動かす」というキャッチフレーズにすごく感動して、ここで学びたい! と思いました。公立の大学が第1志望でしたが、(本学部の)AO入試の課題に取り組み始めるとどんどん引き込まれて、心からここに進学しようと思いました。

中川さん 私は二人より年齢が1つ上なんです。1年浪人して入りました。高3の年に1期生の募集が始まる予定でしたが、1年先延ばしになったので、他の大学を受けるかどうか悩みました。結局、現役で他の大学に入っても、絶対に後悔するなと思ったので、1年待つことにし、その年はどこも受けませんでした。

 ――すごい決断をしましたね。

中川さん もともと観光系の学部を志望していたので、他の大学も見ていました。そのうちに観光業界側から観光を促進しても、オーバーツーリズムなどの問題、地域のコミュニティなどの問題は解決されないことに気づいて、地域側の目線で学べる観光のほうがいいんじゃないかなと思っていました。そうしたときに国学院大学に観光まちづくり学部ができることを知って、ここだと思ったのです。

 実践的な授業に取り組む中で、
 自分のやりたいことが見えてきた

 ――実際に学んでみていかがですか。

冨永さん 「地域」「街づくり」「観光」などに興味を持っている人が集まっているので、共通の話題で盛り上がることが多く、楽しいです。「ご当地牛乳が好き」と言えば、「わかる。どこどこのがおいしいよね」みたいな、すごいニッチなところで共感し合えます。高校時代はそういう人が身近にいなかったので、こんなに話が盛り上がるんだと驚きました。

中川さん それ、わかる! 私も、わかってもらえないと思ってたことがわかってもらえるって、めっちゃ嬉しいなって思いました。毎週、誰かしら地方に行くので、お土産を買ってきてくれるんですよ。もらって「イエーイ」みたいな(笑)、そういう仲間意識みたいなものも生まれて、(大学生活は)すっごい楽しいです!

榊原さん 僕はこの学部に入るまで、地方はどこも似たようなものだと思っていたのですが、そうではないんですよね。地域はいろいろな要素で成り立っていて、 1つとして同じものはありません。どの農山漁村にも必ず何らかの違いがあって、それが「個性」なのだと気づきました。
 なぜ気づいたのかというと、授業で地域の課題に触れる機会が多いからだと思います。そこから自分のアイデアをふくらませています。例えば「演習」という授業では、そのときに指定された地域の課題と魅力を見つけて、分析し、構想(やってみたいこと)をその地域の人に提案します。そういう実践的な学びができるところが、この学部の魅力だと思います。
 実際に地域と連携してまちづくりに取り組んでいる先生がいらっしゃるので、発表のときは、谷中(東京都台東区)で事業を行っている企業の代表の方や、地域整備に関わる区役所の職員さんが来てくださり、僕らの発表を聞いて、フィードバックしてくださいました。発表して終わりではなく、フィードバックをもとに何かできることはないか、と次のステップを探ることができるので勉強になります。

河先生 今の話の中に出てきた「演習」は学部の目玉授業で「演習Ⅰ」から「演習Ⅲ」まであります。「演習Ⅰ」ではメソッド(地域の見方や調査法)を学びます。「演習Ⅱ」では鎌倉を対象に、グループで地域の特性や課題を把握し、分析します。「演習Ⅲ」では、学生がそれぞれ興味をもった5つの地域(神田・谷中・横浜・相模原・湯河原)に分かれてフィールドワークを行い、地域の魅力を磨き、課題解決につながる提案を行います。そのほか、連携を結んでいる地域も多数あります。

中川さん 地域の方と触れ合い、刺激をもらえる「演習」は、自分たちの学びだけでなく、地域の活性化にも役立つというのが、めっちゃいいなと思いました。

(写真A)みんなの観察を眺める


 2年間の専門ゼミ。成長を考え、
 やる気のある人と関わりたくて河ゼミへ

 ――皆さんはなぜ河先生のゼミを選んだのですか。

榊原さん 僕は企業の社会貢献に着目しています。本業とは別に、余力で特定の地域に寄付をしたり、ボランティア活動をしたりする、そういう意味合いの地域貢献を考えるときに、パブリック・リレーションズの中の「コミュニティ・リレーションズ 」(地域社会との良好な関係構築)や、「CSR」(Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任)と関連づけられるのではないか、と思いました。河ゼミだったら、アカデミックな研究をPRと関連付けて自由度高くできそうな感じがしたので入りました。

冨永さん 私はこの学部にAO入試で入ったのですが、そのときからPRに興味を持っていました。やり方によって、地域文化をもっとうまく発信できるはずだ、という考えをもって入学しました。観光情報雑誌の編集長を経験されていた楓 千里先生の授業を通して、発信することの面白さを再確認しました。さらに河先生の「コミュニケーション論」という授業を受けて、コミュニケーションの奥深さを知って、河ゼミに入りたいと思いました。

中川さん 私は「基礎ゼミ」という授業で体験した、河先生のPR動画作成が楽しかったからです。またやりたいなと思ったことと、募集のための説明会で、先生が「やる気のある人しか求めていない」みたいなことをおっしゃったんですよね。ゼミ活動は2年間あるので環境は大切です。普段からやる気ある人たちと関われる場に身を置きたいと思ったので、河ゼミを選びました。

河先生 「基礎ゼミ」ではそれぞれ学生が個性的な動画を作っていますが、ここにいる3人とも印象に残っています。意欲もあるみなさんがゼミに来てくれて、とても嬉しかったです。

(写真B)良いと思う事例を選ぶ


 ――皆さんはどんな「PR動画」を作ったのですか。

榊原さん 僕はふじみ野駅周辺のPR動画を作りました。もともと動画編集の技術を持っていて、編集だけならパパッとできます。それを最大限に生かして作った作品ではあったのですが、発表後のフィードバックを受けて、もっとテーマやコンセプト、表現の仕方などにこだわればよかったと思いました。動画作りって本当に大変で面白い作業なんだな、という新たな学びもありました。

河先生 榊原さんの作品は、受験生を主人公に受験前と受験後の心の変化を描いたものです。富士見市は塾が多いまちだから、受験生を主人公にして、音をうまく使って人の心理や街の変化を表現したかったようです。音という切り口がとても良いなと思いました。 私たちも何かに没頭しているときは、ある音は全く聞こえない、ある音しか聞こえないということもよくあります。前半(受験前)では鉛筆の音や、本をめくる音などが印象的でしたが、受験を経て、大学生になった場面からは雰囲気ががらっと変わり、周りの音も豊かになって楽しさが伝わる演出なんです。

 ――感性を感じますね。

河先生そうなんです。良い動画は感性から始まるんですよ。ここにいる全員、感性が豊かな動画を作りましたね。

中川さん あまり覚えていないのですが、私は失恋が1番のコンテンツになると思っていました。実際にそのとき失恋していたので、それを題材にして「七里ヶ浜」を「失恋ヶ浜」に変えたんですよ。

河先生 失恋した人が海を訪れて、美しい風景や波の音によって失恋の悲しみや辛さを乗り越えていく……。心を新たにしていくストーリーでした。何より「七里ヶ浜」を「失恋ヶ浜」に変えたタイトルが印象的でした。動画の内容や魅力がタイトルから伝わってきて、学生の間でも「すごい」と好評でした。冨永さんは、自分の作品覚えてる?

冨永さん 懐かしさと、夏の思い出と、映画館・フィルムがコンセプトでしたよね。そして夏やまちに関係のある詩や言葉を動画に埋め込んでいきました。

河先生 冨永さんは、詩や言葉をただ単に紹介しただけでなく、フォントまで手書きで自ら書き上げてオリジナリティ溢れる作品を仕上げました。懐かしさを出すために冒頭で映画館の画や映写機の音を入れたり、画面構成も昔のフィルム映画を見てるような……。こだわりを感じました。

中川さん 作品ができたときはめっちゃいい、と思ったんですけど、1年経つとなんだろう……。

冨永さん もっとうまくできたんじゃないかって思うよね。

榊原さん 確かに。音作りがもっとうまくできたらよかったのにな。

河先生 1年生の後期であのレベルの作品を作れたのはすごいことですよ。


 「本ゼミ」の後に学生同士で集まり、
 主体的に活動する「自主ゼミ」が熱い

 ――基礎ゼミ(2年にわたり「PR動画」のような課題を年に2つ選べる・各7時間)は観光まちづくり学部の特色の1つですよね。

河先生 そうですね。基礎ゼミAと基礎ゼミBを履修すると全部で4つの課題に取り組めます。学生たちを見ていると「基礎ゼミ」が、わりと早い段階から自分の好きなテーマや分野に出会うチャンスになっているように思います。

(写真C)ディスカッションしながら絞り込む

中川さん 私は街を題材にしたコンテンツ(映画、小説など)が好きなんですね。例えば「街の上で」という下北沢を題材にした映画があるのですが、登場人物が本当にそこで暮らしているような感覚になります。そういう作品を、卒業研究とは関係なく自分で作ってみたいんですよね。

河先生 「本ゼミ」が終わった後に、学生たちだけで「自主ゼミ」をしています。3人ともそのコアメンバーで熱心に取り組む姿にいつも感心しています。中川さんの作品も、いつかできるわね。

 ――自主ゼミとは?

冨永さん (閉館時間の)21時ぐらいまで、「ゼミで何やりたい?」みたいなことを議論するというか、おしゃべりしています。最近は「コンテストをやろう」と言って、 それについてアイデア出しをしたり、自分がやりたいことをそれぞれが話す、プレゼン大会みたいなことをしたりしています。

河先生 最近は本ゼミよりも自主ゼミの方が熱いんですよ(笑)。

冨永さん (本ゼミの内容は)むずいから。

河先生 前期はPRに関する教科書を輪読していたので、それを読み込むことがゼミの課題になっていました。自主ゼミで、本ゼミで取り上げた本の理解をお互いに確認し合いながら議論を深めていこうとする姿勢に感心しました。ほかにも、各種コンテストに挑戦したり、授業と関係なく自主的に動画を作りたい、と言っている学生もいて、ちょっと自慢にしています(笑)。

中川さん 先ほど、お話した街を題材にしたコンテンツですけど、山内マリコさんの「東京23話」という本を映像化したら面白いんじゃないかなと思っているんです。(自主ゼミでは)自分がこんなことを言ったらどう思われるかな、ということを、あまり気にせずに話せます。前向きな提案であれば、どんなことを言っても大丈夫な関係ができていると思っています。

冨永さん 確かにゼミ内ではそうだよね。自分たちの卒業研究の構想を、ゼミの中で発表したときも、奇譚なく批判的な意見を言いました。それを「そういう視点もあるんだ」と受け止めてくれる人が多いから、刺激の多い学部だし、ゼミだと思います。

 

(写真D)結果を共有する


 卒業研究は「自分がやりたいこと × PR」
 自分らしい研究テーマを模索中

 ――卒業研究はどのようなテーマで取り組む予定ですか。

冨永さん 
私は本が好きなので、旅エッセイから地域の魅力を抽出して、地域PRができないかなと考えています。例えば、横浜には赤レンガ倉庫や中華街、外人墓地などがあり、それらを合わせたものが横浜の個性になるのだろうと思います。そうした考えを前提に今、エッセイを読み込んで、取り上げられることが多いものは何か、どう表現されているかを調べています。複数の文章をもとに、その地域の新たな個性を見つけることができたら、地域PRも面白いものになるんじゃないかなと思っています。

中川さん 私は「サードプレイス」に着目しています。サードプレイスの概念として、自分が落ち着く空間を求める「マイプレイス型」と、そこにいる人たちとの関係性を求める「交流型」があって、マイプレイス型はその場所じゃなきゃいけないけれど、交流型はその場所じゃなくてもいい。むしろ空気感が好きなんじゃないか、と考えていて、そういうことをどうにか研究にしたいと思って頑張っています。

榊原さん 僕は今年、富士見市が行う「ふじみのMACHI fes street」でミニチュア傘を好きなようにカスタマイズするワークショップを主催しました。さらに発展して、今は会場を彩る、頭上にかける大きな傘のデザインをコンテストで募っています。

河先生 傘をシンボルに街づくりを、ということなんですよね。

榊原さん 近隣住民の方が参画する機会がなかったので、このコンテストを通じてコミュニティ意識を創成していけたらいいなと思っています。卒業研究ではそうした地域貢献の障壁になるものとは何かを研究してみたいと思っています。

 ――まさに体験したからこそ出てきたテーマですね。

榊原さん 確かに、そういうことか。

冨永さん そうだね。私たちとは全然違う視点だよね。

榊原さん 僕は受験勉強中、特に何かに興味があったわけでもなく、現代社会は面白いな、ぐらいなことしか思ってなかったんです。二人と違ってこの学部を目指していたわけではなかったので、入学当初は本当に真っ白なキャンパスだったんです。そんな自分でも学んでいくうちにどんどん変わって、自分なりの学問というか、研究にたどりついたので、河ゼミは懐が深いと思います。

河先生 ゼミで取り組むテーマを限定している研究室もいると思いますが、パブリック・リレーションズは実践的分野なので、私のゼミではそれぞれが興味を抱き、やりたいことを「パブリック・リレーションズと関連付けることができれば、どのテーマでも、どの対象でも良い」ということにしています。ゲームが好きな人はゲームとまちづくりについて、ダンスやサッカーが好きな人はスポーツを通じた地域活性化について、それぞれ好きなことを自由にやろうとしているので、この先が楽しみです。


 観光はあくまでも手段。
 目的はその先のまちづくりにある

 ――最後に、中高生に伝えたいことがあればぜひ。観光まちづくり学部のPRでもいいですよ。

冨永さん 観光まちづくり学部は「観光でまちづくりをしたい人が来る学部」だと思います。「自分のやりたいこと × 観光=まちづくり」、そういうことができる学部だと私は思っています。

中川さん 神田スタジオで演習をしたときに、観光まちづくり学部は「まちを使って遊ぶ学部」なんだと思いました。まちが自由帳で、好きなだけお絵描きできるみたいな感じの学部だと思います。

冨永さん そうだね。そんな感じだね。「フィールドを用意したから、ここで自分の好きなことをやっていいよ」っていう、遊び場みたいな。

榊原さん 僕もそう思う。用意されたフィールドで、自分のやりたいことを自由に考えているうちに、いつの間にか1つのまちで考えたことが、他のまちでも応用できる力がつく。それが、この学部の魅力だと思ってます。
 これは私たちのとらえ方なんですが、観光はあくまでも手段であって、目的はその先のまちづくりにあります。その部分に関わって学んでいくので、地域やまちづくりに興味がある、やりたい、という人であれば、最大限に輝ける環境だと思います。

 

 ==観察ノート合評会==
写真A~Dは、「観察ノート合評会」の様子。《前編》の記事にある河ゼミの『観察ノート』は、「①身の回りにあるPRを観察する→②気になる事例を選ぶ→③GOODかBADかを判定し特徴や改善点を分析する」という取り組みで、「観察ノート合評会」は、みんなの観察を眺める(写真A)、良いと思う事例を選ぶ(写真B)、ディスカッションしながら絞る(写真C)、結果を共有する(写真D)という流れで行われます。

【取材日/令和6年7月18日】